第52回 林剛司さん
 
林剛司(はやし・たけし)
1973年、石川県金沢市生まれ。
早稲田大学教育学部英語英文学科卒業後、埼玉大学大学院文化科学研究科修士課程、学習院大学大学院人文科学研究科博士後期課程に学ぶ。修士(文化科学)。
嘉悦大学、國學院大學、麻布中学・高等学校、暁星中学・高等学校などで非常勤講師。明法中学・高等学校、成城中学・高等学校において専任教諭。埼玉大学留学生センター助手、国立沼津工業高等専門学校専任講師を経て、2017年4月より北陸学院大学短期大学部専任講師。訳詞家、音楽雑誌の翻訳者としても活躍。
著書に『英語は「多読」中心でうまくいく!』(ごま書房)、『楽しい英語多読入門 優劣のかなたで読みひたれ』(丸善プラネット)がある。2015年4月より『朝日ウイークリー』紙上にて連載「放課後ブッククラブ 辞書なしで読もう!」

最初にいただいたメールには、当社刊行の「斎藤造酒雄先生の「英語教師40年の足跡」(2004年刊)」のことが書かれていました。
英語の「業界(?)」では、あの先生の著を読むとか、あの先生の指導を受けるなどの、「王道」みたいなものはあるのでしょうか。
いわゆる「王道」はないでしょうね。
ただ、私の知っている限りで言えば、私の世代以上の人で英語が好きになったり、英語ができるようになった人っていうのは、NHKラジオ「英語会話」(現「英会話」)や「百万人の英語」(文化放送)を聞いていたという人は多いですね。私は「百万人の英語」講師だった國弘正雄先生から多大の影響を受けました。


林さんの著書「あとがき」を拝読しました。そこで「小説入門」と同じだな、と感じました。
松本亨先生の「私のすすめることは、なにはさておき、英語をお読みください、ということです。会話にばかり重点をおかないで、多読速読を身につけることです。手あたり次第、英書、英語の雑誌、英字新聞を読んでください。」と。
とくに、「多読速読」にははっとさせられました。
私の意見としては、最初から「速く読もう」と思う必要はないと思います。「量」をこなすこと。とにかくたくさん読んでいれば、ある程度「スピード」は自ずと後からついてきます。たくさん読むことによって、英語の文章構成(構文)のパターンが身につくので、それは会話にも生かせる、と。逆に「読む」習慣のない人の英語はいつまで経っても「ブロークン・イングリッシュ」です。


偶然、お茶の作法がある番組で放映され、そのときのメインゲストが茶道の当主が作法は、「みようみまね」でいいのです、と。「ほほ、物まねですか」と思わず呟いたことがあります。
これは、林さんが書かれている「英語」に親しむ、近づくため極意。へんな理屈はいらないというお話と同じだと思いました。
そうですね、そのお茶の作法は、英語学習にも当てはまりますね。
私の恩師である國弘正雄先生は「只管朗読」と盛んに言っておられました。國弘先生は道元禅師の説いた「只管打座」からヒントを得たそうです。これは悟ろうなどという気を起こさず「ただ ひたすらに坐る」ということですね。英語も「覚えよう!」と意気込まなくてもいいから、何十回、何百回と音読しなさい、そうすれば嫌でも頭に英文が残りますよ、ってことです。


「帰国子女」は、「英語を話せて当たり前」ではないことも知りました。その生活環境とか、親の教育方針によって、「身につかない子女」もいることを。
その通りです。私はむしろ帰国子女が、日本に帰国してからいかに英語力を維持しているか(あるいはしていないか)ということに興味があり、素人ながら関連書を読んだり、実際に帰国子女の人たちを観察してみました。
その結果(拙著でも「あとがき」で言及しましたが)英語力を維持している帰国子女は、ほぼ例外なく普段から英語を読んでいます。ペーパーバックや英字新聞を。逆に言えば、海外滞在経験がなくても、日本にいても大量の英語を読むことによって、帰国子女に匹敵する英語力を身につけることは可能です。


日本人にとって、英語が身につくというのはどういうことだろうかと考えていました。翻訳、通訳、速読、できることはすごいと思いますが、同時にアメリカではそこに住めば、「身につくのではないか」。英語は学ぶことではなく、自然に身につくものであり、常に生活の一部としてあれば、身につくのではないか、と。
これは単純に捉えすぎているでしょうか。
英語は、アメリカやイギリスに住めば「誰でも身につく」というものではないですね。
それは、ちょうど日本に何十年と住んでいるのに一向に日本語が上達しない外国人がいるのを見るとわかると思います(笑)
Q2にも関わってくることですが、”Hello! How are you?”程度の会話ならアメリカに「住んでいるだけ」で身につくかもしれません。しかし、逆に言えばこの程度ならわざわざ海外に行かなくても、日本で充分身につけられますね(笑)やはり、しっかりと自分の意見を述べたり、交渉したりするときに、しっかりとした構文や文法、それを支える語彙などが必要で、これは「自然と」身につくものではなく、能動的に読み書きして訓練していくしかないのです。


林さんにとって、英語は身近でしょうが、その一番最初のきっかけはどんなことだったのでしょうか。
私は中学校入学時、英語が全然わからず、授業にもついていけませんでした。母がたまたま誰かから「NHKラジオの『基礎英語』」と聞くとよい」と聞いてきて、私も聞いてみました。そしたら少しずつ英語がわかるようになってきて、できるようになった。ラジオを聴くのが好きだったので、何事も長続きしない私が「NHK基礎英語」は継続できたのです。
あとは洋楽が好きで、ラジオの洋楽番組(小林克也が私の中では神!)ばかり聞いていました。中学生の頃、フジテレビで「夜のヒットスタジオ」という番組をやっていて、海外のアーティストが出演するときは夢中になって見ていましたが、彼らの歌を聴くのと同時に、その際に通訳として出ておられた田中まこさんに憧れて、芸能通訳になりたい!と思い、そう思い立ったら英語学習にますます拍車がかかりました。そうこうしているうちに、洋楽、映画、そして英語の「現場」であるアメリカに行ってみたいと思い、16歳で渡米、という感じです。